僕がデザインするもの
例えば、2025年いくつかの国際的アワードで高い評価をいただいた「谷六茶菓」という店舗がある。
https://supermaniac.ne.jp/archives/works/tanirokusaka
古くから営まれてきた大阪の商店街に佇む、その小さな店で、僕が一番大切にしたデザインは、建築的な装飾でも内装の仕掛けでもない「道ゆく人とのコミュニケーション」そのものをデザインしたことだ。スタッフが店先に立ち、対面で販売するという一見古風な仕組みをスイーツ店に取り入れることで、道行く人々との自然な会話が生まれる。
誰かと交わす短い言葉や笑顔――それこそが、この空間に宿る最大のデザインなのである。
さらに今、淡路島で進めているホテルのデザインでは「作法」をテーマにデザインしている。といっても、マニュアルのような作法ではなく、もっと軽やかに、ファッションを楽しむように「作法を遊びへと変換できないか」と考えている。堅苦しい作法を押しつけるのではなく、せっかく、ここに来たのだから、ここでしか体験できない作法を学びとして、また遊びとして、ファションとして、体験価値に変換できないかと考えたのである。ここにくれば気負わずに作法に宿る美しい所作や精神性の豊かさを学びながら、楽しめる。それこそが新たな遊びであり、またここにしかない体験価値になると考えたのである。
このように、形を持たないものをどうデザインするか。それは目に見えるモノ以上に難しく、同時にやりがいのある挑戦だと思う。人と人との関わりや、日々のふるまいに潜む「無形の価値」を丁寧にすくいあげ、そこに新しい意味や楽しさを吹き込むことで、ここにしかない価値を生み出す。僕はこれらもデザインと呼びたい。